連続バンド小説 「俺はまだ速弾きができない」 第15話

『ダイスを振る前に』

T.OZAWA(以降、OZAWAと表記)のことを書くのには随分と時間を要してしまった。
書いては消し、書いては消し、時に頭の中のアイデアを消しては書いた。

何故か。

それは、彼がバンドの中で唯一仕事で知り合った人間だからである。

20xx年東京某所、俺たちは出会った。
共通の客先で、別の会社所属、同じチームメンバーとして。

俺たちの仕事はITインフラに纏わる業務で、業界内では “基盤” という隠語で呼ばれる職種になる。
IT業界と言ったとき、読者の諸氏がどのようなイメージを持たれるかわからないが、自分たちの業務に限っては非常に地味で裏方なものであり、カジュアルウェアでスタバのカップなど持たない。
よれたスーツ、焼き鳥にワンカップが定番である。

形式上の挨拶を済ませた俺たちは、これから始まる仕事のために環境資料の確認などを行う。
そんな中、OZAWAが発した。

「あの、マサキさん(※)は、どういうスタンスでお仕事される方ですか。私は仕事をがつがつ取りに行く、そういう人間です」

※ストーリーの便宜上こうする。

俺は答える。

「そうですか。私は与えられた仕事を全力でこなすだけです」

厄介なのが右隣に陣取ったなと思った。
しかもよく見ると三つ揃えのスーツで決めている。きっとオーダーメイドなのだろう。(セミオーダーかもしれない)


出会った相手に最初に抱く印象に対して、実像がそのままの場合もあれば、そうでない場合もある。

この時は後者だった。

いつしか俺たちは毎日昼食を共にし、時に夕食、そしてワンカップを共にした。
飽きもせず何をそんなに話していたのかは覚えていないけど、一時期は家族よりも共に過ごした時間が長かったかもしれない。
そんな仲になっていた。


ある時俺たちは、業務において、他部署の依頼でコンビで作業を行った。
粛々と依頼作業を全うしたが、後に依頼元の部署からクレームが入る。
曰く、結果を見るに作業に不備があったのではと。

そんなはずはない。俺たちは間違いなく与えられた仕事を全力でこなした。
一体何が問題なんだとクレーム返しの準備をしていると、OZAWAが震えながら発する。

「マサキさん、これ………」

そこには裏面に記された手順があった。俺はすべての事態を察する。

俺たちは完全に裏面をノーマークだった。

それが何故かは未だにわからない。

そこからは二人でリカバリや謝罪行脚に奔走した。
その後、オフィスでの在席タイミングの問題で、その時たまたま自席にいたOZAWAだけが上層部にきつい叱責を受けることになるが、今となってはそれもまた良い思い出である。

1年後、俺たちは別々の理由で、しかも同じタイミングで離任することが決まっていた。

業務最終日は期末だったこともあり、部署を上げての飲み会で、宴の後、俺たちは慣れ親しんだ駅への道へ歩を進める。
ゆっくりと。

そしてお互いビジネスマンとして別れた。

それから何年も何年も経ち、同じステージに立つようになる。彼はアサルトライフルを携えて
どうしてそうなったのか俺は正直言って全く覚えていないので、バンド加入における肝要な部分を語ることはできない。

ただ俺たちがまたこうして手を組んだのは、きっと諦め切れなかったのだろうなと思う。

なぜあの紙切れの裏面に記されたメッセージに気付けなかったのかを。

(続く)


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