連続バンド小説 「俺はまだ速弾きができない」 外伝① 

『大統領になれなかった男 ~ ノーモアチャンス柴田 #1』

他のメンバーとのストーリーに対して、柴田の話なんか少ないなと思われた読者諸氏もいるかもしれない。
実として、エピソードが少ないわけではなく、逆にボリュームがありすぎて収めきれなかった、というものとなる。
それをこれから二回に分けて記していきたいと思う。

彼と出会ったのは何かのライブの打ち上げだった。
そこの場のノリでギタリストとしてバンドに加入し、遂にツインギターだメタルだと高揚したあの感覚をよく憶えている。

その当時柴田は今のような来日スタイルではなく、白や蛇柄のスーツなどを纏っていた。
Gibsonのよくわからないギターを持って。(そのレア度について一生懸命説明していたけどすぐに忘れた)

ギターテクニックについては、まぁまぁだなと思った。
プレイを聴いたこともないのにバンドに引き入れる俺も俺だが、まぁこれならいいかと思ったものである。
このバンドのソングライティングは基本的に俺がやっており、手癖のようなリフから起こしていくことが多い。
彼にもやはり自分のスタイルがあるから、そこを飲み込むのに苦労しているように見えた。

俺たちはライブを重ねた。
確かにギターは2本鳴っている。なのにこの違和感は一体なんだろう。
疑惑の点が黒い雲のように広がっていく。
ツインギターには何よりチームワークが必要だ。当時俺たちは若かったし、突っ張っていた。
今思えば、相手と俺の我が衝突してしまっていて、ツインギターの美どころかバンドアンサンブルを破壊するまでに至っていた。

黒い雲から土砂降りの雨が降り出した感覚を覚えたとき、俺は遂に切り出した。


「柴田よ………すまないがおまえはクビだ」


暫くの沈黙の後、わかりました、という蚊の鳴くような返事を認める。

俺は空を見上げる。晴れ間を探すように。


「ただし、それはギターを辞めろと言う意味だ」


一体何を言ってるんだろうという顔でこちらを見やる柴田の口は半開きだった。


「ベースをやってみないか?」


その時当時のベーシストの脱退が確定しており、俺はその穴埋めを依頼したのである。
サウンドを聴いたこともないのに、ギターが弾けるならベースも弾けるだろうという安直な発想を持って。
顧みると、俺は全く反省しない男である。

柴田は答えた。

「やります」

2013年秋、柴田1度目の解雇、からのパートスイッチだった。

(続く)

 


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