『ほうじゅの恋 ~ Dangerous Kiss #1』
ほうじゅと俺の付き合いは長い。
20年を超えた辺りからカウントしなくなった。
これは彼との出会いや、バンド結成当初の流れの先にある時間軸のストーリーであるため、当時の背景を復習したい読者諸氏は第一話を参照し、回顧頂きたい。
余談だが、という司馬遼太郎お決まりのフレーズが俺は嫌いではなく、寧ろその余談を遊びたいのだろうなという氏の無邪気な笑みを容易に想像できる。
前置きが長くなったが、これは余談 of 余談であり、タイトル通り極めてセンシティブな内容であるため、ほうじゅ本人に2回念押しをし、許可を得た上で初めて公開するものである。
200x年、俺たちは同じ職場で労働をしていた。
シフトが違ったから共に働くことはほぼなかったが、お互いオフの時に現場に遊びに行っては、ボスがいない隙にUSENでJudus Priestなどをリクエストしてはエキサイトしていた。
無論電リク(※)である。
※電話で楽曲の放送をリクエストをすること
二人共未来のことなど何も考えておらず、バンドをやるという密約を結んだことでもう何かを成した気になっており、楽器の練習や活動など全くしていない状況であった。
そんな折、職場に新しく一人の女性が入ってくるという話を聞き、俺たちは沸き立つ。
紅い髪、長身で美形な彼女は、就任挨拶時に言った。
「よろしくお願いします。私のことは “キャサリン” と呼んでください」
業務の関係性なので、勿論本名は伺い知っていたが、俺たち陰キャは、「はい」と言うしかなかった。
まだメンヘラという言葉が浸透していなかった頃の時代である。
彼女は、初対面の印象とは裏腹に、仕事はテキパキとこなすちゃんとした人だった。
寧ろ俺たちの方が、職務技能は劣っていたかもしれない。
内面を知ると、やはりスーパーサブカル女子だったけど、話題が合ったため、いつしか業後に飲んだりするようになっていた。
高円寺の今はもうないディープな居酒屋で、芝居や小説や音楽の果てのない話をしたように記憶している。
ある時、俺は酔いに任せて言った。
「キャサリン、俺たちバンドを始めたんだ。”つぐもの” っていう名前なんだけど。もし良かったら、スタッフとして手伝ってくれないかな?」
「いいよ!」
バンドで初めてスタッフが決まった瞬間に、俺たちは歓喜した。
以降別のスタッフが参加してくれているが、初代が彼女であることを知っているのはほうじゅと俺だけである。
俺たちは気が合ったのか、よく三人で遊んでいた。
しかし、その関係性は長くは続かなかった。
ある時、彼女と二人で会うタイミングがあった。
感情が読めない人だったけど、その日は特に言葉少なだったから、どうした?と声をかけた。
彼女は答えた。
「あのね、私ほうじゅさんのことが気になっているの」
驚天動地だったが、俺は努めて冷静に答える。
「そうか。何かできることがあれば手伝うよ」
その日、彼女は珍しく立てなくなるほどに泥酔し、俺は腰が抜けそうになりながらおぶって家まで届けた。
その実、逆に俺が彼女のことを気になり始めていたのだが、到底言えるわけもなかったし、気を紛らわすために俺は合気道を始めた。
後日、ほうじゅにそれとなく、おまえ、彼女どうなの?と聞いたところ、
「ううん、友達としてはいいけど、お付き合いするのは」
と、言い淀むので、俺は、わかった、と返す。
三者三様の思いがあり、俺たちの関係は少しぎこちなくなったが、その後誰もそこには触れなかった。
それから程なくキャサリンは離職し、誰にも告げず街を去った。
連絡が取れないのでアパートを訪ねたら、本当にもぬけの殻だったのである。
これ別にほうじゅ恋してないじゃん寧ろマサキ恋してるじゃんとなるのは必然だが、あくまで次の話に繋がる序章と捉えて頂きたい。
ここから、スピードを上げて行きたい。
(続く)