連続バンド小説 「俺はまだ速弾きができない」 第4話

『さよなら高円寺』

記録に示された先人達のバンドの在り方とは違ったかもしれないけど、俺達は少なくとも満ち足りた時を過ごした。
遅い青春と言って差し支えなかった。
しかし終わりを告げる必要があった。

俺はメインバンドではリーダーのポジションにしかいた事がなかった。
学生時代は自然と学級委員に任命されていて、自分の立ち位置とはそういうものだと受け入れていた。
他のバンドに加入したこともあったが、脱退するか解雇されるかの二択であった。
性格性により、自分の王国を作るしか手がなかった。

メンバー全員に電話をし、拙くもストレートに想いを伝えた。
みんな優しい奴等だったから、電波越しに逡巡を感じたが、結果受け入れてくれた。
ラストライブをキメてやろうとなった。

最後は、元々決まっていたブッキングライブで、場所は、今はなき伝説の高円寺20000Vだった。
記念に観てやるかなのかわからないけど、何故か50人近いお客さんが来てくれた。
初めてギャラをもらったのもこのときである。
先にも後にもない光景をステージから見た。
終了後、やっぱ辞めるのを止めるかと全員思っていた。

ほうじゅは当時衣装として着ていた白衣を投げ、俺は特注の学ランを投げた。
学ランは受け取ったお客さんに求められ謹んで差し上げた。
白衣はたまたま医療関係の仕事に従事しているお客さんの元に届き、「仕事で使えそう」と、連れ立ったお友達と歓談しているときにほうじゅが、

「それ、記念なので返してもらっていいですか」

と、言ったのを聞いた。
俺は驚愕した。(本当に返してもらっていた)

バンドは解散した。

俺は新しい音楽を求め歩き、ほうじゅは再び明晰夢に没頭した。
ただ俺達は疎遠になることはなく、度々会っていた。

3年程経った頃、色々上手くいってない俺は、ストレスをぶち撒ける勢いに乗せてほうじゅに言った。

「また”つぐもの”をやる」

「わかりました」

またつぐものをやることになった。
結成から10年が経過していた。

(続く)