連続バンド小説 「俺はまだ速弾きができない」 第5話

『テレパス』

3年振りにつぐものをやる。それは実に自然なことだった。
申し入れを受けたほうじゅは、また面倒事が始まった、というような顔をしていた。

そして苦難のメンバー探しの再来である。
しかしそれなりに活動していたので、そのときには片手で数えられる程にはバンド友達ができていて、当時良く一緒にライブをやっていたバンドのベーシストで「杉さん」という人が手伝ってくれることになった。
彼も前任の和尚同様パンク好きなプレイヤーで、実直な性格そのままに図太い音を出すが、飲んだ席で良く受けた女難の話をしていた。
衣装はこれで、と忍者装束一式を自主的に揃えてきたときに、彼側にも要因があるのではないかと感じたりした。

ともかくこれでまずは前回同様のフォーメーションでバンドができるとなったが、サウンドの色味的に少し物足りなさを感じてもいた。

ヨーコちゃんの働いていたロックバーは普段から会話ができないレベルの音量で音を垂れ流していて、惜しまれつつも閉店となったが、近隣住民は少し安堵していたように見えた。
以降昼の仕事をするようになったことがあり、非性的な意味で夜を徹して一緒に遊んだりするようになった。
彼女はピアノが弾けたので、仲間と一緒にスタジオに入って遊んだりしていた。

そんなある日、自然と言葉が口をついて出た。

「ヨーコちゃん、バンドやろうぜ」
「いいよー」

即答だった。
ビジネスの基本であると感じた。
キーボーディストが決まった。

省みると、自分がほとんどのメンバーの命名をしていることを知る。
その頃ヨーコちゃんはタクシー関連の会社で仕事をしており、俺は酩酊しながら伺いを立てた。

「バンドネーム、”赤髪”と”タクシー”どっちがいい?」
「・・タクシーかな。赤髪はちょっと嫌かも」

名前が「ヨーコ。先生」に決まった。
無論、こういう先生に教えを受けたかったという想いからである。

メンバーがなんと5人になった。だがその幾年か後に倍以上の人数になることを俺達はまだ知らない。

新体制での初ライブは、高円寺GEARとなった。
万全を期したが、想定外が起こった。
「アニサキスショック」である。
つまりヨーコちゃんが、ライブ前日に鯖に当たったのである。

(続く)