連続バンド小説 「俺はまだ速弾きができない」 第7話

『その男、角刈りにつき』

2006年に一度つぐものを解散した後、俺はタケと一緒に新しいバンドを立ち上げた。
真面目なメタルバンドをやろうというのがスローガンだったが、別に”つぐもの”を真面目にやってなかったわけではなく、元ヤンが見た目と共に更生するような、そんな反動力からだった。

センさんは、当初のバンドのスターティングメンバーで、その後やはり真面目なもう一つのメタルバンドを共にし、再始動したバンドにベースとして加入した。
それまでは普通の格好で演奏していたのに、突如ハッピ、ハチマキ、足袋を渡され、お前はこれを着るのだ、と言われたときの彼(※)の哀しみを帯びた苦笑いを俺は忘れない。
※二児の父である。

初めて一緒にスタジオに入ったとき、彼は椅子に座って黙々とベースを弾いており、その印象を持って俺は初ライブに臨んだ。
演奏中、虫の知らせのようなものを感じて下手に目をやると、ベースのヘッドを肩より下にポジショニングし、ダック・ウォークを決めた男が頭を振りながら猛然と俺の方にやってくるのである。
そして俺のエフェクターを踏んで帰っていくのであった。
現在は、センさんの見えないところにエフェクターをセットするようにしている。

この頃のバンドの活動内容は、背伸びをするようなものが多かった。
そのペースと合わず、惜しまれつつも彼は翌年にバンドを去る。
ステージ終了後に、人目も憚らず号泣するセンさんと抱き合った俺の頬にもやはり涙がつたっていた。

その後ベーシストは幾人か入れ替わりがあり、その際も色々なドラマがあったが長くなるためここでは差し控える。

現在はまたセンさんがバンドに戻ってもう数年になる。

彼の復帰を願うばかり、何度断られても俺が昼夜問わず説得メールを送り続けるので、遂に相手が根負けしたのである。
俺達はもう一度剣を取り合った。
そして暗闇の先に指す光を求め再び迷走を始める。

バンドの発展を願う当時の俺達の出した答え、それはボーカリストを増やそうというものだった。

(続く)